介助犬と暮らす選択

                        
補助犬とは、盲導犬、聴導犬、介助犬の三種の総称です。リハビリのために普及が望まれるところですが、欧米に比較すると大変遅れをとっています。その原因のひとつは、犬を飼うことについてのためらいが数々あるようです。ある介助犬ユーザー(関節リウマチ)はこう述べています。「関節の負担を減らして、障害の進行を遅らせるために助けてほしい。でも、犬という生き物の命を預かる責任が怖い。本当に生活の負担軽減になるのだろうか。住んでいる市営住宅はペット禁止で、説得が難しそう…」
 病院のリハビリテーション部の後押しもあって、2年かけて介助犬導入を決心し、市の住宅課との交渉にこぎつけました。介助犬のことの他、質問を受けています。近隣との関係は?吠えない?犬の世話は大変だけれど、介助犬が必要な人(障害者)にできるの?逆に負担にならない?本当に室内で飼えるの?本当に信用できるの?など。他は問題ありませんが、下線部は個別対応が必要になります。道具の工夫、ボランティアへの依頼、動作の工夫など。特に排泄の処理は、様々な工夫がありますので自分に合ったやり方を見つけなければいけません。認定までは負担軽減か、増加か、確信がもてなかったそうです。合同訓練で、コマンドのタイミングやアイコンタクトの角度など、やっと分かり合える仲に。介助犬との暮らしの中で揺れ動きながらも、たどりついた心境は「介助犬だからこそ、という新しい可能性がたくさん」「命を預かる重みは元気のもと」だそうです。この間に必要不可欠なことは、リハビリ関係者からの継続的支援だと強調してくれました。これら支援で、作業療法の役割のひとつは補助犬を選択するための支援、動機づけ支援だと考えます。国立障害者リハビリテーションセンター学院で過去12年に亘って「補助犬と作業療法」の授業を担当させていただいていますが、最近の内容は「補助犬訓練への動機づけと介入」です。補助犬による作業方法の工夫、適応しやすい環境づくり、社会資源の利用についてユーザー中心に計画、実行できるようお手伝いしているつもりです。理論としては、補助犬と暮らす目的探し、主観的認識、気づきを支援するため「欲求の段階(Maslow)」「最適経験、喜びの現象学(Csikszentmihalyi)」「生きる意味、実存分析(Frankl)」「環境のアフォーダンス(Gibson)」から説明させてもらいます。補助犬のリハビリ機能としては障害の二次的予防とヘルスプロモーションがありますが、作業療法では作業バランス、作業的公正、エンパワーメント、作業形態の発展、作業的アイデンティティと役割の構築を強調することも欠かせません。理論の枠組みを利用し、クライエントの利点と問題点を明らかにし、支援の焦点を考え、実行する。そこにはクライエント中心による的確な選択と決定が求められます。それを支援するのが作業療法士の役割ではないでしょうか。
 最後に、前述の関節リウマチの方は補助犬導入に向けて二つのお願いをしています。
1. 補助犬は生活を豊かにする有効な手段です。障害が重くなってからではとても大変なので、軽いうちからの導入が望ましいです。
2. リハビリテーション分野の支援を得られないと負担が増加してしまいます。支援は導入前及び認定後も継続すること、経過により変化するので指導は不可欠です。(原和子)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です